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「ラッシュライフ」 伊坂幸太郎

読み終わって思わず涙ぐみそうになった…。いい話だった。

それぞれに様々な人生を送る何人もの人々の生活が、ある一週間ほどの時間の中で複雑に絡み合い、影響を与え合う。その結果として彼らの得たもの、失ったものは、それぞれ大きかったり小さかったりするが、作者はそれらを肯定的に前向きに書いていると思う。
意図的にずらされた時系列は読んでいて不思議な味わいだったが効果的。出てくる登場人物たちや、起こる出来事の数々は相当に浮世離れしていたりもするのだが、それもこの作者ならではのものだろう。「オーデュボンの祈り」の主人公氏がちょっとだけ出てきたのにはびっくりした。つながっているんだね。場所も仙台だし。
仙台といえば、作者は仙台在住だけあって、出てくる地名や描写がいちいち真に迫っている。わたしは昔、仙台に住んでいたことがあるので、読みながらに「ああ、あそこか!」みたいに光景が目に浮かんできて面白かった。一時期行列のすごかったコーヒーチェーン店ってス○バだね(笑) 実際にわたしが見たわけではないが、本当にすごかったらしい。今では閑古鳥らしい。

とりあえず、発行年代順だと次は「陽気なギャングが地球を回す」である。楽しみだなあ~。

ラッシュライフ」 伊坂幸太郎
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by agco | 2004-10-31 23:29 | ミステリ

「猫の息子 -眠り猫II-」 花村萬月

<猫の息子>タケはものすごい美青年で、外見だけ見ていれば父の猫とまったく違うが、やっぱりその中身はきちんと<猫の息子>なのである。

<猫>と呼ばれる元警察官のその男は、うっすらハゲかけた目の細い中年男で、とにかく日々ぐうたらとし、なんら建設的なことをしない。一応探偵家業の看板を掲げているが、本書の中では一度もそれらしい働きをしていない。しかし美人の彼女はいるし、息子はなんだかんだといってこの父に懐いているし、金には困っているようでいて困っていないし、タダ酒を飲ませてくれるおかまのママはいるし、周囲のあらゆる人種に顔はきくしで悠々自適。
その分<猫の息子>たるタケは、少しばかり父に反発してみたり、マンションの家賃を代わりに払ってやったり、父の飲み代をバーテンダーをして体で払ってやったりと大変だ。……書いていて思ったけど本当に大変だな。
でも、なんだかんだとトラブルに巻き込まれたり、死にそうな目にあったりしても、タケは<猫の息子>らしく立派にそれを乗り越えていく。がんばれ、タケ。

いろいろな形で交錯する人間関係が、愛らしい本です。

猫の息子 -眠り猫II-」 花村萬月
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by agco | 2004-10-31 00:01 | ミステリ

「乙女なげやり」 三浦しをん

おたくであることを隠そうともしない、潔い乙女の(語弊あり)妄想エッセイ。
そのはっちゃけぶりは清清しいが、でもわたし、この人とあんまり好みが合わないかもしれない。語り口とかはいいんだけど。
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by agco | 2004-10-30 14:26 | エッセイ

「老博奕打ち 物書同心居眠り紋蔵」 佐藤雅美

物書同心、藤木紋蔵は、いつでもどこでも、うつらうつらと居眠りするという奇癖があり、居眠り紋蔵と呼ばれている。この居眠り癖は、もしかしたらナルコレプシーかと思いきや、どうもそういう訳ではないらしい。しかしこの奇癖せいで、紋蔵は物書同心といういわば閑職に回され、出世は望めそうにない。
しかしこの紋蔵、結構いろいろなところから頼まれたり、自らの仕事のついでに首を突っ込んだりと、次から次へと事件に遭遇する。それも、最初は何気ないと見えていた出来事が、意外な別の出来事と結びついていたりして、本人にも思いがけない解決を見たりする。
それらは紋蔵自身の知恵もあるが、人徳かなあと思う部分もある。紋蔵は別段正義を振りかざすタイプではなく、妻子をかかえて貧乏に苦しみながら、内職に励んだり愚痴を言ったり、人間らしい部分をたくさん持った人物で、それゆえに多くの人に頼られる。頼られるとこれが放っておけない。気乗りのしない事件にも、いやいや首を突っ込み、なんだかんだといって上手く収める。そのかわりに紋蔵の方が割を食ったりすることもある。微笑ましい。

紋蔵はなかなか良いキャラクターだが、それにも増してすごいと思うのは、著者の物語の書き方だ。余計な感傷をすべて省いた、潔い文章を書く。特に短編ひとつひとつのラスト。ぐだぐだ事の顛末を並べ立てたりはしないでズバッと終わる。その後のことは、読者が勝手に想像すればいい。それだけの材料は必要十分なだけ与えられているし、わからないというような人は、自らの想像力の足りなさを恥じるべきだ。
佐藤雅美の本はこの居眠り紋蔵のシリーズしか読んだことがないのだが、長編を書かせたらこの人はどういうものを書くのだろうかと興味がある。いつか読んでみたいと思う。

老博奕打ち 物書同心居眠り紋蔵」 佐藤雅美
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by agco | 2004-10-29 00:28 | 伝奇・時代・歴史

「ぬしさまへ」「ねこのばば」 畠中恵

病弱若旦那シリーズの第二弾、第三弾である。つづけざまに読んだので、記録もまとめてしまおうと思う。

前作「しゃばけ」は、筆者のデビュー作であり、長編一本から成っている。以前にこれを読んだときには、面白くないわけじゃないけど、パンチの足りない本だと思った。なんというかラストがあっけなかった。でもそのぽややんとして淡々とした風情は、短編の形ではうまく生かせるのではないかと思った。
という、同じことを編集者さんの方でも考えたのか知らないが、「ぬしさまへ」、「ねこのばば」はどちらも連作短編集である。そして実際、筆者の持ち味は、こちらの方が生きていると思う。

廻船問屋かつ薬種問屋の長崎屋の若旦那は病弱で、屋敷の離れで寝付いてばかりいる。しかし若旦那には大きな秘密があって、お祖母様はなんと人ならぬ妖狐であり、孫の若旦那のためにと犬神、白沢というふたりの妖を世話役につけてくれていた。おかげで若旦那は始終妖怪たちに囲まれて生活しており、二親ばかりかこの世話役たちが若旦那を甘やかす甘やかす。とはいえ若旦那の病弱を気遣うばかりに、ちょっと咳きでもしようものなら分厚い布団に放り込まれて、まともに起き上がらせてももらえなかったり、過保護すぎて苦労も絶えない。
しかしこの若旦那というのが、そんな環境に育ちながらも気丈でしっかりとしており、また存外に人をよく見ていて知恵が回る。妖たちや岡っ引きが持ち込む様々な謎を、妖たちを手下に情報を集め、ときには自ら動いて鮮やかに解決する。いっぱしのアームチェア・ディテクティヴなのである。
どこにでももぐりこめたり、人にはできない様々な非常手段が使えたりする妖が間に噛むので、勢い物語は通常の推理物にはありえない飛躍した展開を見せるわけだが、そもそもこれは本格ミステリではないし、どちらかといえば若旦那を中心とする人々や妖たちの、悲喜こもごもを味わえばよいものだろう。
そういう意味では、それなりにきちんとよくできた話だと思う。

映画化するって小耳に挟みましたが、流行っているんですかね?
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by agco | 2004-10-28 23:45 | 伝奇・時代・歴史

「反逆の星」 オースン・スコット・カード

流刑惑星トリーズンに、80人の反逆者たちが流された。それから三千年がたち、反逆者たちはそれぞれの技術や能力をもとに性質の異なる国家を築き上げていた。
遺伝学者の先祖を持ち、驚異的な人体再生能力を身につけたミューラー人の第一王子ラニックは、過剰再生症を発症し、一見女性化した体を持って国を追われる。彼は追放の身でありながら、同時に敵国ンクマイの秘密を探るという密命をおびていた。この使命を成功させれば、父王はラニックをミューラーへと再び受け入れてくれるかもしれない。そうした希望を持ってンクマイへと潜入を果たしたラニックだったが、その正体を知られ、命からがらンクマイをも逃げ出すことになる。そこから世界各国を遍歴する彼の旅がはじまったのだ。

80人の反逆者たちの職業や能力によって、それぞれに独自の特色を持つに至った子孫の人々の書かれ方が面白い。ンクマイは物理学者の子孫で、恒星間航行の新理論を築き上げ、地質学者の子孫たちは岩や地面と語らい、物質の構成を変化させる方法を身につけ、哲学者の子孫は思念で自らの属する時間の流れを自在に操る技を身につける。
最終的にラニックの最大の敵となる一族は、祖先に政治家を持ち、それゆえに相手を幻惑する技を持つ。
そうした様々な一族の住む土地を巡り歩くうちにラニックは成長し、ついには彼の望みを叶えるだけの力を持つようになる。このラニックという王子はなかなかバイタリティにあふれた性格で、辛い目にあっていても簡単にはへこたれないし、ちゃんと自分の望みを知っている。重い罪を引き受けてでも、彼が正しいと信じることを成し遂げるだけの気概がある。
だからこの物語は決して暗い方向へはむかわない。

SFとファンタジーの中間にあるような話だが、この感じはアン・マキャフリイの「パーンの竜騎士」シリーズや、ル=グィンの「闇の左手」なんかとも通じるところがあるなあと思う次第。いや、どちらも好きなんです。

本書は初出時にはずいぶん不評だったのだそうだが、わたしは楽しく読ませてもらった。教えていただいて良かった。ありがとうございます。

反逆の星」 オースン・スコット・カード
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by agco | 2004-10-27 01:31 | SF

「九十九十九」 舞城王太郎

あまりの美貌ゆえに彼を見る者はのきなみ失神するという超絶探偵「九十九十九」
その彼を巻き込み翻弄するのは「創世記」と「ヨハネの黙示録」に見立てられた数々の殺人事件。謎の男「清涼院流水」から次々と送られてくる「小説」は、一部に現実をなぞりながら、フィクションをそれに折りこみ、章立てを改めるごとに前作を覆しながらより複雑に現実を変容させていく。

ミステリなんだかSFなんだかという内容ですが、これ、面白い。清涼院流水の本をこれまで一度も読んだことがないので、きちんと内容を理解できていないかもしれないけど、面白かった。
↓の本の感想のところに「騒々しい文章は苦手」みたいなことを書いているけど、舞城王太郎の文は実に騒々しいと思うのに、不思議に気にならない。さらっと流してしまえる。えげつない犯罪行為や人間関係も、パズルを解くのに似た無茶な推理もさらりと読める。それでいて、決して無情なのではない。大事なところはきちんと押さえているなと思う。
そしてこの人の擬音の使い方はいつ見ても独特でいい。宮沢賢治並だな!(大賛辞)

九十九十九」 舞城王太郎
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by agco | 2004-10-26 00:51 | ミステリ

「花粉戦争」 ジェフ・ヌーン

未来都市マンチェスターは、犬人間やロボットや、他の様々な人間の混血種の闊歩する混沌とした場所だ。死体までもが生殖の対象となり、死者と生者の交わって生まれた子供は、女児は思念感応力を持つ美女<シャドウ・ガール>となり、男児は醜い外見を持つ<ゾンビ>となる。世界には、現実の世界のほかに、夢の世界<ヴァート>が存在し、<羽>と呼ばれるドラッグを用いてほとんどすべての人間はこれに耽溺するが、ごくまれに夢想不能者<ドードー>も存在する。
こうした状況の中で、<ヴァート>から現実の世界へと侵攻が始まる。それは当初、花粉症の蔓延という形をとった。<ヴァート>世界の花粉、ひいては植物が、現実世界の生物を侵し、また犯そうとする。受粉は植物の性交である。花粉が現実世界の生物たちの鼻腔に着地することで、動物と植物の交雑が起こる。そしてそれは<ヴァート>世界の王であり、夢見られる存在であるジョン・パーレーコーンが、物語られることでしか存在を維持できない我が身を、現実世界と融和を図ることで確固たるものとしようとする試みだったのだ。
しかし夢の世界<ヴァート>の侵攻は夢想不能者<ドードー>に影響を与えることができない。喉から植物を生やし絶命した犬人間のタクシー運転手・コヨーテの死に不審を抱き、<ヴァート>の陰謀をいち早く察知したのは<シャドウ・ガール>であり<ドードー>である、ひとりの女性捜査官だった。

以下、長い上にネタばれになるので省略。
ここまで話を要約してみましたが、設定面白そうですよね…。でもわたし、ここまでのことを理解するのにすごく時間がかかってしまって、最後まで読んでも今ひとつ話に入り込めませんでした。この本の前に同設定の「ヴァート」という本が出ているらしいのですが、それを先に読まなかったのが敗因だったのかもしれない。あるいは騒々しい文体が合わなかったのかもしれない。
なんだかすごい本だったとは思うのですが、好みではなかった。残念。

花粉戦争」 ジェフ・ヌーン
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by agco | 2004-10-25 23:20 | SF

「ヴァイブレータ」 赤坂真理

肌や内臓で文を書く人だなあ。
骨の髄まで女なんだなあ。

赤坂真理の本を読むのはこれがはじめてなのだが、以前からいろんなところで名前だとか文章の一部をちらちら見かけて、少し気になっていた。
そして実際読んでみて、なんとなく、わかったような、わからないような。
わたしの中にはあまり女性的な感性が足りていないので、あまりこれといった感想が出てこない。本書のタイトルであるヴァイブレータは、長距離トラックのエンジンの振動、それに突然乗り込んだことで現実から離れ揺さぶられる、主人公の31歳女性の内面の振動を意味する。震え、ばらばらに分裂し、おびえて揺らぐ、繊細な心理の状態だ。
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by agco | 2004-10-20 23:57 | その他創作

「ローマ人の物語(8~13) ユリウス・カエサル」 塩野七生

長らくここが止まっていたのは、何も読んでなかったからではなくて、文庫にして6冊にも渡る壮大なユリウス・カエサルの記録を読んでいたためです。
ルビコン以前で3冊、ルビコン以後で3冊。ユリウス・カエサルの幼少時よりはじまり、その死後、甥のオクタヴィアヌスが実質的な後継者として権力を掴むところまで。
長い長いお話ですが、単なる長さの問題でなく、色々と考えさせられる内容であるために、この本を読むのはすごく時間がかかるのです。
考えることの主体は政治と軍事。2000年も以前の物語であっても、そのどちらもが結局は、人を見ること、状況を的確に判断すること、使えるものを既存の概念にとらわれず上手く活用することによるのだという事実は、現在においてまでも不変であるように思われます。
最終的には暗殺という非業の死を遂げたユリウス・カエサルですが、その成したこと、人を魅了したこと、卓越した先見性などを詳しく知ると、偉大な人であったのだなあとしみじみします。
彼の人生が物語としてめきめきと面白くなるのはガリア戦役の始まるあたりからなのですが、それはやはり軍事は傍から見てわかりやすく動だから。結果が比較的すぐに現れるからなのでしょう。でも彼の議事の場における優れた機知も、戦場で陣頭に立ち兵士を鼓舞する勇猛さも、どちらも同じくらいに人並みはずれており、そのふたつが1人の人間の中に同居することではじめてユリウス・カエサルという人は歴史上に類を見ない偉人となりえたのだと思えます。まあ運の部分もありますけどね。

塩野七生という人は、わたしに政治や軍事を真剣に考えさせてくれる、数少ない存在です。他に類似の問題を考えさせてくれる人といったら宮城谷昌光くらいでしょうか。単にわたしが知らないだけだと思うんですが。
多少頭は疲れましたが、良い読書でした。

ローマ人の物語 ユリウス・カエサル」 塩野七生
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by agco | 2004-10-19 23:59 | 伝奇・時代・歴史



あまりに自分の忘却力がすごすぎるので、面白かったものも面白くなかったものも、とりあえず読んだ本の感想を全部記録してみることにしました。コメントなどありましたらご自由にどうぞ。
by agco