アル中で冴えない中年男のバーテンダーである菊池は、その昔の安保の時代、爆弾テロの犯人として追われた過去があった。
二十年以上に渡って身を潜め、正体を隠して生きてきた彼の生活は、ある日の新宿中央公園で起こった爆弾騒ぎで一変する。彼は偶然その場に居合わせただけだったのだが、まるで犯人ででもあるかのように実名報道され、警察にも、正体の知れないやくざ者にも追われることになった。 爆弾テロの大勢の被害者の中には、彼が昔親しくしていた女の名があり、犯人の狙いが一体どこにあったのか、それが不透明だった。 菊池は死んだ女の娘・塔子や、やくざの浅井らの協力を得て、次第に事件の真相へと近づいていく。 過去からは逃れられない。 菊池の昔の爆弾テロの容疑は冤罪というか正確には事故であってテロですらなかったが、それをあえて言い立てなかったのは彼のかつての親友に対する義理というか友情のためだ。あるいは菊池という人物のそもそもの性格のためだ。 何事に対しても割とあっさりとしていて、ひょうひょうと自分らしさを維持している菊池という人間に、周囲は憧れたりひそかな嫉妬を感じたりする。 それが二十数年もの時を経て、思いがけない大量殺人として結実したことは、菊池には責任の持てない不幸な事実だったろう。
by agco
| 2005-07-19 22:57
| ミステリ
|
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