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「文政十一年のスパイ合戦 検証・謎のシーボルト事件」 秦新二

海外で新たに発見された資料を読み解き、既存の定説にとらわれず、シーボルト事件の真相を詳細に追求した本書は、ノンフィクションでありながら良質のミステリを思わせる内容である。
シーボルトは本当はスパイであったのか否かという表面的な問題ばかりではなく、事件の裏に隠されたオランダの意図、日本国の真の目的、これまで考えられていたものとはかなり違った人々の動きが資料に基づき、綿密に検証されている。
100%鵜呑みにするのは少し危険かもしれないが、なかなか説得力がある。
しかし、この本を読んでいると、むらむらとシーボルトが嫌いになってくるので困った。(困ることはない?) いや、別に、スパイ行為をしたとかしないとかいうことはどうでもいいのだ。ただこのシーボルトという人は、実に有能な人物であったらしいのだが、恵まれた環境でつまずきひとつなく大人になってしまったせいか、非常に無自覚に傲慢な人なのである。本書に翻訳されているシーボルトの手紙の文章をそのまま信じるのなら、彼は自分が有能であることを知っており、自信家であり、なおかつ己を善良で公平だと思っている。もちろん翻訳の過程で、微妙に原文のニュアンスが変えられてしまうことはあるだろうから、ここで受けた印象をそのまま信じてはいけないのかもしれない。しかし、それにしたって嫌な男だ。おまえのような奴はでっかく挫折して一度苦労を経験してこいと願ってしまうが、事実シーボルト事件によって彼は大変な辛酸をなめることになるわけだから、世の中は上手くできている。

ところで本書はノンフィクションでありながら、日本推理作家協会賞なんか受賞していて、不思議な感じだ。推理…は、確かにしているが、推理ならなんでもいいのか、そうか。
by agco | 2005-03-16 23:31 | ノンフィクション
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あまりに自分の忘却力がすごすぎるので、面白かったものも面白くなかったものも、とりあえず読んだ本の感想を全部記録してみることにしました。コメントなどありましたらご自由にどうぞ。
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