再読……のはず。
その昔、というよりそれはもう昔々のことじゃった、というくらいの昔、わたしがこの本を図書館から借りて読んだのは小学生か中学生くらいのことじゃった。 ヘンリー・メリヴェール卿という、カーター・ディクスン(ジョン・ディクスン・カーの別名)の生み出した探偵は、ビア樽のごとき太った異相の変人で、とにかく下品、下世話、他人の迷惑になることをこよなく喜び、周囲を混乱のどん底に陥れながら、いつのまにやら事件を解決するという、相当はた迷惑で無茶苦茶な人物なのである。 昔々にこの本(多分)を読んだときには、そのあまりの破天荒さというか、ミステリーの本筋をほったらかして悪ふざけに命をかけたようなストーリー展開に度肝を抜かれ、腹を抱えて笑った……気がする。 しかし今読むと、結構ヘンリー・メリヴェール卿は理性と知識と教養と配慮のある、いい人なんですよね。そう感じるのはわたしが大人になったためなのか、それとも大昔に腹を抱えて笑ったのは実はこの本ではなかったのか。ううむわからない。 そのあたりをはっきりさせるには、ヘンリー・メリヴェール卿のシリーズを全部読んでみなければならないでしょう。 しかし、案外まともじゃんと思ったこの作品も、十分に悪ふざけは行き届いているのです。メリヴェール卿は老齢をむかえ、田舎の屋敷に引っ込んで大人しくしているかと思えば、イタリア人の歌の教師をやとって歌の練習に励んでいますが、相当に音痴である上に歌う内容がまた下品。近所を通りかかった警察官を自転車から転がり落とすほどの威力を秘めたそれを、地域のチャリティー・コンサートで2時間半も歌おうと計画を立てていますが、慈善会の担当の婦人は卿の歌を一度も聞いたことがなく、哀れにも騙されています。 さてその隣人にあたるテルフォード館では、不思議な事件が勃発しています。大変な金銭的価値を持った<騎士の盃>なるものが、不寝番をしていた館の主人がふとうたた寝した隙に、鍵のかかった金庫から取り出され、何故か盗まれもしないで机の上に置かれていたのです。部屋は内側から鍵のかかった密室。さて、どこの誰が何の目的で、またどうやって、その密室に入り込み、盃を盗まずに立ち去ったのか。 この謎を最終的に解決するのはメリヴェール卿なのですが、それまでに至る間の紆余曲折が半端じゃありません。ミステリというよりはドタバタコメディと呼ぶのがふさわしい混乱ぶり。謎の本質はかなり忘れ去られたも同然に、悲喜こもごも様々な人間模様が描かれます。 ちょっとくどいくらいの脇道逸れ具合ですが、メリヴェール卿が楽しそうだからそれでいいや。はは。 そのうちこのシリーズだけでも集めようかなあと思案中。
by agco
| 2005-01-23 22:21
| ミステリ
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