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「ダック・コール」 稲見一良

特別な何の野心もなく、目的もなく、山野をさすらいながら石に鳥の絵を描く、ほとんど世捨て人のような男。
その稚拙ながらも素朴で力にあふれた鳥たちを目にしたことから、仕事に夢破れた若者は、6つの夢幻の世界へとさまよいこむ。

……男のロマン? 自然とともに暮らすということと、そのロマンとが、野生の鳥たちとの関わりを通して非常に鮮やかに描き出されている物語たちである。
鳥好きの方はぜひ一度ご覧あれ。

ダック・コール」 稲見一良



第一話
三年をかけた大事な撮影の瞬間に、仕事よりも幻のシベリヤ・オオハシシギをフィルムに収めることを選んだカメラマン

第二話
リョコウバトの大群を目にしたことを誰にも信じてもらえなかった猟師

第三話
密猟という一事を介して知り合った、病を抱えた男と少年。少年が師匠で男が弟子。彼らは協力し、成金男の私有地から、鴨をごっそり盗み出す。養老院に暮らす不思議な老女たちと、ひとりの紳士と、男と少年のディナーは気品に満ちて、不思議に切ない。

第四話
かつて狙撃手として戦争に参加した過去をもつ、日系アメリカ人のケンは、冷静沈着で今でもいい射撃の腕を持っている。森へ逃亡した脱獄犯を捕らえるという作業に参加することになったケンは、保安官らとともに、ついにはひとりのインディアンの戦士を追い詰める。

第五話
人と交流することが苦手で、乱暴者と思われがちだったが、その実やさしい心の持ち主であり、弱った鳥を治療し森へ返すことが上手だった漁師の男。その乗った船が沈んだとき、彼は波間に不思議な光景を見た。大きな流木に伸ばした首を載せて泳ぐ亀。同じ板から突き出た角材に、水先案内をするかのように、きっと首をもたげてとまったグンカンドリ。男はこの奇妙な船に揺られて陸地へとたどりつく。
海で遭難するのは嫌だが、<亀の枕>がすごく羨ましい。

第六話
カモをおびき寄せる罠として作られた木製のカモ、ダック・デコイ。持ち主に使われ、そのまま捨てられてしまったそのデコイは、口のきけない少年に拾われることで、命を取り戻す。木製の体にヘリウム入りの風船をつけられて、観覧車の上から海へと向かって飛び立ったのだ。それを見守る少年の笑顔が美しい。
あの坊主はきっと偉大な人になるよ! (今でも偉大だ)
by agco | 2004-11-15 22:53 | その他創作
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あまりに自分の忘却力がすごすぎるので、面白かったものも面白くなかったものも、とりあえず読んだ本の感想を全部記録してみることにしました。コメントなどありましたらご自由にどうぞ。
by agco
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