「膚の下」 神林長平

火星三部作の三作目であるが、時系列的にはこれが一番最初にあたる物語である。
なんというかこう、ものすごく良い話だった。サイエンスや兵器、戦術のことなんかわたしにはよくわからない。こうだと言われたらそういうものかと思ってしまう。しかしそれは問題ではなくて、物語の核心となる「革命/変化」を、慧慈という「人間ではないもの」が起こそうと考え、それを実行するということ。また周囲がそれに反発し、また同調し、それぞれの思惑を抱えながら物語の終末へと雪崩をうって進んでいくこと。その精神の形の成長・変化がきっちり描かれていることが素晴らしいのだと思う。
これは一種の「人間ではないもの」の成長物語である。
そして、神林長平という作家が、こうした物語をきちんと書ける作家になってくれたことが、わたしはとても嬉しい。火星三部作の1つ目「あなたの魂に安らぎあれ」は、彼のデビュー後第一長編であるが、わたしは昔からこれがものすごく好きだった。いい形で決着をつけてくれたと思う。
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# by agco | 2004-08-07 00:20 | SF

「エロティシズム12幻想」 監修:津原泰水

はっきり言ってしまうと、想像を越えて面白くない本だった。
エロティシズムといったらこう、空気の中に色濃く漂う形のない何かを指すとばかり思っていたのだが、この本に集められているのは少しそうしたものとは違っている。
どちらかといえば、あけすけで、どぎつく、セックスに直接関わる話が多い。
つまり、非常に男性的なエロティシズムなのである。
12人の作者のうち、女性4人だけだし…監修者も男の人だし、これは仕方のないことなのかもしれない。でも正直言って落胆した。そして女性と男性の感性の差というものを改めて思い知った気がした。

しかしひとつだけ気になるのは監修者でもある津原泰水。この人の「妖都」を読んだときに、わたしは作者は女性なのかと最初誤解した。男性であるとわかって、少し意外に思い、しかし性描写には確かに男性的な部分もあるなと納得もした。
でもやはり、彼だけは完全に男性的とは言い切れないのである。男性らしさと女性らしさの両方を持っている、つまりは両性具有的であるというのがふさわしい。「どちらでもない」のではなく、「どちらでもある」なのだ。これは結構珍しいことだと思う。
ちなみにこの本の中のベストを挙げるなら、それはやはりこの人の話なのである。なんというか、気になる人だ、津原泰水…。
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# by agco | 2004-08-05 13:46 | その他創作

「オールウェイズ・カミングホーム」 アーシュラ・K・ル=グィン

「すごい」本だ。しかし「すごくいい」本かどうかは微妙だ。
この本は小説ではない。ひとつの(未来)世界を創造しようという試みである。
そのために用いられているものの一部に小説がある。それなりに長い1つの物語と、短編がいくつか、ほかには詩、戯曲、対話の記録、論述などの形式が存在し、それぞれが絡み合って1つの世界を構築する。そこには「いまだ存在しない」言語が用いられ、そのための辞書、用語解説なども巻末に附されている。
このような世界そのものを精密に創造しようという試みは、エルフ語を1から作ってしまったトールキンの指輪物語とも共通するように思う。
面白いかどうかはともかくとして、その創造性と意欲、知識量にはほとほと感心する。興味深いことも確かである。
でもル=グィンはある時期からフェミニズムが鼻につくようになってきて、この本の中にもうっすらとその気配があり、そんなあたり、個人的には微妙に引いてしまうんだよね。
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# by agco | 2004-08-05 11:35 | SF



あまりに自分の忘却力がすごすぎるので、面白かったものも面白くなかったものも、とりあえず読んだ本の感想を全部記録してみることにしました。コメントなどありましたらご自由にどうぞ。
by agco
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