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「伊勢エビの丸かじり」 東海林さだお

本書には一箇所だけ「異議あり!」と指をつけつけてやりたくなる部分がある。
メロンをどこまで食べるべきかという話のときだ。

あまりに皮の寸前まで食べるのはお行儀が悪い。貧乏人だと思われる。
かといって、あまりに沢山実の部分を残すのも、なによ見栄を張っちゃってと思われる。
それゆえメロンを適度に残すのは難しいと東海林さだおは言っている。

ここまではいい。人としてわかる。問題は次だ。

同じく残し方が難しいものとして、旅館の朝食に出てくる味付け海苔が例に出される。
これも、世のお父さんたちは、一袋に五枚入っているのを何枚残すかで悩むというのだ。全部食べるのは意地汚いようで外聞が悪いというのだ。

ちょっと待て。それ違うだろ。メロンと海苔を一緒にしちゃいかんやろ。
メロンを残すといっても、それはどこまでを「食べる部分」と見なすかという個人の線引きの問題であり、あくまで残された部分は「食べられないもの」なのだ。
しかし海苔は最初から五枚入っている以上、一旦袋を開けた以上は選択肢は「全部食べる」しかないのではないか。残すような半端な食べ方をするくらいなら、最初から手をつけるべきではないとわたしは思う。
だって残された海苔は、十分「食べられるもの」であるのに、無理やりゴミにされてしまうのだ。なんてことだろう残虐非道だ。そんなことをするお父さんたちは漁師に呪われてしかるべきだ。
そういうわけで、東海林氏には、ぜひとも心を入れ替えて、海苔を五枚全部召し上がっていただきたいのである。
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by agco | 2005-10-31 22:28 | エッセイ

「福音の少年」 あさのあつこ

あさのさんは何を狙っているんだろう…。

本書を読んでいて非常に違和感をおぼえるのは、一般小説の手法と児童文学的手法が入り乱れているからだと思う。
生々しい夫婦の性生活なんかを臭わせる傍らで、とてもベタな感じの<暗殺者>っぽい人が、あまり背景を書き込まれることもなく登場し、非常にリアリティのない役どころで場をかき乱して行く。
主人公の明帆と陽という高校生ふたりがやたらといちゃいちゃとして、おまけに陽が恐ろしいほどに魅力的な声の持ち主だということまでは、百歩譲ってよしとしよう。
しかし陽が明帆にむかって「人殺しの目だ」みたいなことを言っちゃうのは、冷静になって考えてみると失笑でしかない。
これがNO.6のようなSF仕立ての未来が舞台だというのならそれでもいい。しかし現代日本の片田舎でそれをやられるとかなりキツイ。
そのキツさに見合うだけの説得力ある背景が書かれていれば済む話なのだが、こういうところだけ児童文学的といおうか、理屈も何もなく「そういうものだから」という感じで流されてしまうところがよろしくない。
現代日本の片田舎の生活、ごくありふれた家族の営みのようなものを、細やかに書けば書くほど、暗殺者やクズな政治家や虚無を抱えた高校生という存在が、非常に周囲にそぐわないものとして浮いてしまうのだと思う。

あさの先生は、「大人向け」の小説の書き方というものを、少し考え直してみてはいかがだろうか。
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by agco | 2005-10-29 00:40 | その他創作

「航路」 コニー・ウィリス

この本怖い。ホラーの怖さとは違う、ぞわぞわと背中の冷える怖さがある。(特に前巻)
それは本書が死を、正面から扱っているからだ。

NDE(臨死体験)を科学的に研究しようとしている認知心理学者のジョアンナは、神経内科医のリチャードに誘われ、擬似的にNDE時の脳の状態を作り出す投薬実験に参加する。
なかなか被験者が揃わない状況の中、ついにジョアンナは自らが被験者となることを決意するが、その体験の中、彼女が訪れた<場所>は、思いがけないものだった。
リチャードの理解すら得られない中、ジョアンナは必死で自らの体験の意味することを理解しようとつとめるが、ようやく結論が得られたときには、悲運が彼女を待ち構えていた。

この結論には実はあまり意外性がない…。その普通さにむしろ驚いたほどだ。
あれだけもってまわって、走り回って、回り道をしてたどり着いた結論がそれ。
ちょっと気が抜けたことを告白します。
ていうかこの本、そこに至るまでの話が猛烈に長い。「ドゥームズデイ・ブック」の時のいらいら感を倍増させた勢いで、とにかく邪魔が入って進まないので、相当に神経が痛めつけられた。コニー・ウィリスは読者をいらいらさせる天才だ。正直言ってあそこまでする必要があったのかどうか、わからない。じらしの手法はやりすぎるとくどいだけだ。
上手いし、面白いし、印象的な場面も沢山あったが、わたしが本書を絶賛しきれないのは、本筋に関係のない回り道があまりに長すぎるからである。
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by agco | 2005-10-26 00:09 | FT・ホラー・幻想

「ベルカ、吠えないのか?」 古川日出男

ワッカとキスカから撤退しようとする日本軍が、後に残していった4頭の軍用犬。その血筋は数代に渡って壮大な変転を遂げる。
狼と交わり、また、宇宙を体験したソ連の英雄的な犬たち、ベルカとストラルカの血筋と交わり、テロリストの下でひそかに訓練される犬。
米軍に養われ、増え、戦場へと駆りだされる犬。
品評会に出る犬、麻薬をかぎつける犬、地下をさまよい生き延びる犬。
犬たちは人間の歴史に興味はないだろう。しかし人とあることで確実にそれに関わり、数奇な運命をたどる。

けっこう興味深く読みました。
うんでも、これで直木賞は無理かもな。
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by agco | 2005-10-24 23:56 | 伝奇・時代・歴史

スタージョン

ぎゃあ!
11月発売の、早川書房「異色作家短編集」シリーズ第二回配本に、シオドア・スタージョンの「一角獣・多角獣」が入るんですって!
……どうせなら文庫で出してくれればよかったのに…とか文句をいわず、大人しく買うことにします…。タイトルはよく聞くのに、読んだことなかったんです「一角獣・多角獣」。
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by agco | 2005-10-20 23:13

「ハンマー・オブ・エデン」 ケン・フォレット

細々と電気も通らぬ谷間でワインを造り、少人数で維持してきたコミューンはあるとき、水力発電用のダム建設計画のため、存亡の危機に陥った。
発電所建設を阻止するために、プリーストと呼ばれる男は知事を脅迫することを思いついた。サイスミック・バイブレータという名の振動発生装置を用いて、人工的に地震を起こすのだ。
プリーストは「エデンの鉄槌」と自ら名乗り、警告文を何度も送る。はじめは四週間後に地震を起こすと警告し、それが無視されると仕方なく、辺鄙な場所で実際に地震を起こしてみるより仕方がなかった。
二度目はその一週間後。今度も彼らの要求は通らず、前回よりも大規模で被害の大きな地震を彼らは発生させた。そしてさらに次回は二日後を予告した。
しかし何十年にも渡って人里離れた場所ですごした彼らはすっかり現代文明とは隔絶し、最新の科学捜査というものが何もわかっていなかった。プリーストは追い詰められ、それにともない無慈悲なサイコパスとしての顔を浮き彫りにされていく。

テロといっても普通にイメージするテロと違うのは、プリーストほかのテロリストの人々の描かれ方だ。彼らは自らの住処を守るために立ち上がるが、無差別に人を殺すということが平気であるのはプリーストひとりだし、そのプリーストにしてさえ、最初のうちはそんなことをするつもりはまるでなかった。
彼らは発電所の建設をやめさせたいだけだった。
彼らは科学批判をするが、実際には現在の科学についてほとんど何も知らない。
ある意味とても純朴な人々である。

「エデンの鉄槌」を追うFBI捜査官のジュディにしたって、ものすごい正義感に駆られて捜査を行っているようには見えない。
彼女は仕事で評価されたいのだし、気に入らない上司や同僚を蹴落としたい。恋人を手に入れたいし、生理的に地震が嫌いだ。

それだから、テログループとFBIとの戦いは奇妙にすれ違って、どこかむなしい。コミューンの人々は自らの土地を守るためにはもっと別の手段を用いるべきだった。適切な方法を考え付かなかったのは彼らが世間から遠ざかっていたためであり、しかしもっと周囲に溶け込むことができるくらいならば、そもそも彼らは閉じこもってコミューンを形成したりはしなかっただろう。

いろいろな面でむなしさのつのる物語だった。
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by agco | 2005-10-18 23:55 | その他創作

「キャベツの丸かじり」「猫めしの丸かじり」 東海林さだお

丸かじりシリーズ、ちびちびと読みすすめています。
気楽に読め、ほんのりとあったか気分になり、にやりと笑い、読み終わった後にはあっさりと忘れている。そんなくらいの軽い本です。でもこれはこれでいい。キャベツや猫めしについてのエッセイを読みながら滂沱の涙を流すような展開は想像できません。

むしろ本書の偉大さはその単調さにあると思います。継続は力なりっていいますが、まさにこのことですね。
読み終わって一週間後に一からまた読み返しても、内容をすでに忘れていて再び楽しめそうですが……いやいや、これこそが癒しというものなのです。
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by agco | 2005-10-13 21:00 | エッセイ

「熊を放つ」 ジョン・アーヴィング

アーヴィングの処女長編。
タイトル通りに「熊を放つ」(実際には熊以外のものも放ってた)物語です。

ひょんなことから知り合ったグラフとジギーは、金を折半して買った中古のバイクで目的のない旅にでかける。
特に目的がないものだから、なんとなくで動物園に寄ったわけだが、そこでジギーは突然に「動物園破り」という考えにとりつかれてしまう。ちなみに動物園破りというのは、道場破りの動物園版みたいなものである。
比較的常識人で、女の子の大好きなグラフはその計画を最初は本気にしなかった。ふたりは旅先でガレンという女の子と知り合い、グラフが足に大やけどを負ったことをきっかけに、ガレンの叔母の経営するホテルに長逗留をする。
奇矯で気まぐれで動物の大好きなジギーは、荷馬を虐待する男に素っ裸で噛み付き怪我を負わせ、ホテルからひとりで逃げ出す。置いていかれたグラフは仕方なく、宿泊費を払うためにも働かなくてはならなくなったが、その仕事の初日にジギーは戻ってきて、彼らは一緒に逃げ出そうとする。しかし上手くはいかなかった。グラフが集めた蜂の巣が沢山積まれたトラックに、彼らの乗ったバイクは衝突し、ジギーはあっけなく命を落としてしまう。
自分も沢山の蜂に刺されたグラフはしばらくホテルで静養したが、動けるようになると今度はガレンとふたりでホテルを脱走し、バイクに乗って走り出す。
彼の頭の中には今、かつてジギーが語り、日記に克明に記した「動物園破り」の計画が深くしみつき、まるで彼自身がジギーに成り代わったように、かつて立ち寄った動物園へと彼を引き寄せるのだった。

この話、ふたりが蜂箱の積まれたトラックに突っ込んだ後から一転、ジギーの両親に関するジギーの記録と、動物園破りについて延々と考察するジギーの日記になるんですが、このパートがもう鬱陶しくて鬱陶しくて、「このままではわたしはここで挫折してしまう!」という危機感を持って、思いっきり読み飛ばしたら、その後はまたスムーズに読めるようになりました。
良い読み方ではないと思うのですが、本当に辛かった…。
でも終わり方はいい。すごくいいお話でした。熊がねえ。ええ、熊がね。(さすがにオチなので書けない)
ジギーは本当に奇妙な子なんですが、ちょっと爽快さのある、ふわふわ地上を浮きながら歩いているような人で、そのあっけない死がとても悲しかった。
なるほど、混乱し、不確かで、もどかしく力に満ちたこれは真正面からの青春小説でした。
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by agco | 2005-10-12 20:35 | その他創作

「ジーヴズの事件簿」 P・G・ウッドハウス

貴族のぼんぼんで働きもせずにぐうたらしているバーティ・ウースターには、がみがみ屋のアガサ叔母さんとか、いつ見ても以前と違う女性に恋をしている悪友のビンゴとか、行く先々でトラブルを巻き起こす親戚の双子や伯父さんやもっと遠い血縁関係の人がうじゃうじゃといて、さらには本人も変なところで押しに弱くものぐさで浮ついた青年であるだけに、日々がもめごとの連続である。
それを颯爽と解決してくれるのが、従僕のジーヴズというわけだが、あいにくこのジーヴズというのは必ずしも主人のためになることばかりをしてくれるわけではない。
問題を解決するために主人の評判を地に落とすことも平気でやるし、自分がカジノに行きたいがために、策略を用いて気に入らないクリスマスの用事をバーティにボイコットさせることもする。バーティの靴下の色や服が気に入らないといっては、間接的な手法でごり押しをして、それを捨てさせたり燃やしちゃったりする。
最終的にはそれらはバーティのためになるのだが、相当そのやり方は悪辣だし、第一話でバーティが危惧したとおりにまさに、彼は従僕に支配されている。おいおいそれでいいのかバーティ。

ミステリというよりは本書はミステリタッチのコメディというべき内容である。面白くないというわけではないが、たとえばサザエさんを一日ぶっ続けで見続けるのが苦痛であるように(え、苦痛じゃない?)、短編一本や二本なら気軽に読めても、一冊分を延々読み続けるのは拷問だった(しかもかなり厚い)。
毎日寝る前に一話ずつ、というような読み方が、本書の正しい楽しみ方だったと思う。
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by agco | 2005-10-03 22:52 | ミステリ

「ムーン・パレス」 ポール・オースター

「ムーンパレス」とは、主人公の<僕>が最初に一人暮らしをはじめた部屋の窓から見える、中華料理屋の名前だった。しかし月はその人生に大きな影響をあたえ、彼を導く。
幼い頃に母を亡くした彼は、クラリネット奏者だった伯父に引き取られて育つ。伯父は変人だったし、あまり人生というものに対してやる気のない男だったが、<僕>にとってはとてもいい友人のような人だった。
彼が大学に入り、あと一年で卒業といった頃に伯父は亡くなり、それに茫然自失した<僕>は、残り少ない貯金を数え、生活費を切り詰め、伯父にもらった蔵書を売ってなんとか卒業の日までこぎつける。
金がないという窮状を誰にも訴えなかった彼は、アパートを追い出された時点でひとりきりで、やがて公園に住み着くことになる。そこで浮浪者のようになんとか日々をやりすごしていたが、冬が近づき、雨に打たれて風邪を引き、とうとう彼は死にかける。そんな彼を救ったのは、大学時代の友人と、まったくの偶然で知り合ったキティ・ウーという名の女性だった。
徴兵も逃れ、いったん友人の家にやっかいになることになった彼は、キティとの恋愛でつかのまの幸せを掴み、また、車椅子の老人の世話をするという住み込みの仕事を見つける。
老人は奇矯というのがふさわしい偏屈な男で、おそろしくドラマティックな過去を持っていた。<僕>は老人の語る半生を記録し、それを老人の一度も会ったことのない息子へと送るようにと頼まれる。老人の死とともにその約束は果たされ、<僕>は老人の息子ソロモンに会う。

人から人への連鎖が運命的につながっていく物語。
そんな偶然があってもいいのかという声もあるかもしれないが、むしろそんなことはあっていい。だってフィクションなんだから。しかしそのフィクションよりも、現実はさらに上を行くことが多いんだから。
<僕>の片意地を張った頑固さ、自分を滅ぼすような行為に頭から飛び込んでいくようなところ。その若さゆえの暴走がとても瑞々しく書かれた話だったと思います。
そしてじいさんがステキだ。←重大なポイント
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by agco | 2005-10-02 22:29 | その他創作



あまりに自分の忘却力がすごすぎるので、面白かったものも面白くなかったものも、とりあえず読んだ本の感想を全部記録してみることにしました。コメントなどありましたらご自由にどうぞ。
by agco
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