カテゴリ:その他創作( 49 )

「偶然の音楽」 ポール・オースター

離婚をし、一人娘を姉にあずけて身軽になった消防士のナッシュのもとに、突如父親の遺産が転がり込んでくる。もう長い間会った事もなかった父からの大金はナッシュをとまどわせる。彼は仕事を辞め、赤いサーブを買って、一年ものあいだ無目的にアメリカ大陸を走り回る。
遺産も残り少なくなってきた頃に、ナッシュは田舎道でポッツィという名の若者を拾った。ポーカーの天才を自称する彼は、ゲームの最中を強盗に襲われ、有り金を巻き上げられたばかりか、ポーカー仲間に強盗の一味と疑われて殴られたのだ。
無一文でくたびれ果てたポッツィを、ナッシュは立派なホテルに連れて行き、服や身の回りのものを買い与える。それは慈善事業ではなく、遺産の残りの一万ドルを、ポッツィの腕に賭けてみようとナッシュが考えたからだった。
ポッツィは宝くじで大金持ちになった二人の男との勝負を目前に控えていた。金持ちたちの館へとナッシュとポッツィはサーブで乗り込み、そこで大きな賭けに出たが、結果は裏目裏目へと進み、ついにはナッシュは全財産とともに愛車までもを巻き上げられてしまう。
町へ戻るタクシー代さえ持ち合わせないふたりに、金持ちふたりは酔狂な提案をした。ヨーロッパから買い上げて運んできた古城の石を組み直し、空き地に長大な壁を作る作業をする人夫として彼らを雇おうというのだ。賃金は一時間ひとり10ドル。借金は1万ドル。ふたりがかりで50日間、10月中旬までかかる肉体労働の日々がはじまった。

ポール・オースターの不思議なところは、特に幻想的といえるような記述をしなくても、淡々と現実を物語るだけで、一風奇妙な世界へ読者をスライドさせてしまうところだ。
本書のナッシュやポッツィも、特別異様なことはしていない。延々と彼らは石を積む。体を動かして働く。しかし彼らの置かれている状況そのものは奇妙であるし、理不尽であり、よそから切り離されている。
ラストは衝撃的だが、あれはナッシュの意図したことではなかったという気がする。偶発的な出来事だったからこそ理不尽なのであり、ナッシュに同情もできるのだ。(人生てのはそんなものさ、とか、思った通りにはいかないものさ、とか)
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by agco | 2005-08-30 23:56 | その他創作

「旅の終わりの音楽」 エリック・フォスネス・ハンセン

沈みゆくタイタニック号の甲板で、その死の直前まで演奏を続けた7人の楽士の物語。
ちなみに、タイタニック号の楽士が沈没直前まで演奏を続けたというのは史実だが、本書に書かれているのは創作された人物たちの物語である。

バンド・リーダーでありヴァイオリニストのジェイソン
ヤク中だが腕は確かなピアニストのスポット
ジェイソンの親友でロシア人のヴァイオリニスト、アレックス
最年少でユダヤ人のダヴィッド
コントラバス弾きの老人ペトロニウス

ほかふたり。
彼らがこの船に集い、演奏することになるまでの人生の変転を描き、最後の瞬間のそれぞれの想いの交錯を詩情豊かに描き出す……のかなーと思って読んでいたんですけど、外されました。

えっ、そんなにあっさり終わっていいの!?

驚きのあっさり具合です。沈み始めてからが早い早い。それまでにバンド内での心の交流とか、もうちょっとあるのかと思いきやさっぱりないし(もっともそれは、現実にも存在しないものなのかもしれない)。
それにメンバー7人なのに、どうして5人分しかまともに過去の説明がないわけよ。あとの二人のないがしろにされっぷりはどうなのよ。バンド・リーダーが最も書き込まれているというのはいいんだけど、その人ひとりで他3人分ほどの分量をもって語られているというのも不公平感がつのる原因です。
ああもうちょっと…しみじみと悲しくなるような、それとも奇妙な満足感が残るような終わりにはできなかったものか。
そんなものを期待して読んだわたしが悪かったという気もいたしますが、なんだろう、嗜好が違うのかな。「美しい喪失」とか「エレガントな没落」とかいう言葉で本書を紹介している池澤×樹の気持ちがさっぱり理解できない一冊でした。
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by agco | 2005-08-29 23:42 | その他創作

「愛その他の悪霊について」 G.ガルシア=マルケス

狂犬病の犬に咬まれた公爵令嬢、12歳のシエルバ・マリアは、発病の兆候をまったく示さなかったにもかかわらず、周囲の人々の目を恐れた父親によって、悪霊つきの名をもって修道院へと押し込められた。
シエルバ・マリアの観察と報告を任せられたカタエーノ・デラウラ神父は、少女に運命的な恋に落ち、修道院の慣習を破ってまで彼女の元へと通いつめ、やがては少女の愛を勝ち得ることになる。
しかしそれは彼らにとっての幸福な結末を意味しなかった。

くっ、やはり面白い。
物語の中心的な展開だけを追っていけば、単純なストーリーともいえなくはないが、様々に広がる人間関係や過去の描写がひどく複雑な重みを作品に与えている。
リアリズムと幻想が混ざり合い、うねり、すべてのものを押し流してくこの書き口は、この作者ならではのものだろう。
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by agco | 2005-08-27 22:48 | その他創作

「十二の遍歴の物語」「青い犬の目」「迷宮の将軍」 G.ガルシア=マルケス

「十二の遍歴の物語」
十二の短編を収めた本書。遍歴しているのはその作者自身であり、生まれてから書かれるまでにネタそのものがくぐりぬけた経緯であり、作中の登場人物たちの生き様だ。
どれもこれも粒ぞろいで面白い。もう何を言っていいのか分からないが面白い。のっけからやられっぱなし。「大統領閣下、よいお旅を」に出てくる大統領閣下が激しくトキメク人物です。
しかしこの本、文庫は出ていないのね…。ハードカバーで買うか…。とほほ。

「青い犬の目」
幻想的な11短編を集めた本書は、一転とても読みづらい本となっています。
上記の本だって幻想的といえば十分に幻想的だというのに、何がそんなに違うのかといえば、それは書き方ではないかと。
「十二の遍歴の物語」は基本的には「出来事」を追いかけて書かれており、「青い犬の目」は登場人物の内面の心理を追いかけて話が進む。出来事らしい出来事は起こらず、ただ延々と登場人物たちが思考をめぐらせている場合が多い。それがちょっと…いやかなり読み辛い。
物語のネタというかモチーフや発想そのものは作者の後の作風と変わらず心惹かれるものであるのに、その書き方が変わるだけでこんなにもついていけない物語になるものかと、むしろ驚く。あのノリに波長の合う人にはきっと傑作なのだろうが、わたしにはダメだった。

「迷宮の将軍」
南米の開放に尽力した実在の革命家シモン・ボリーバルの最晩年を書いたこの小説は、非常に重々しく、幻想の入り込む余地もなく現実的で、写実的である。
人物描写の卓抜さはさすがというべきなのだろうが、そのテーマが重すぎて、ちょっと読むのが辛かった。というより、あまりの長さに段々疲れてきて、途中からかなり読み飛ばし…まし…た…。おお。
ガルシア=マルケスならなんでも好きというわけじゃないんだな、ということがよくわかりました。
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by agco | 2005-08-22 23:49 | その他創作

「予告された殺人の記録」 G・ガルシア=マルケス

事前にありとあらゆる手段を用いて予告され、当人もまた自分が狙われていることを知っていたのに、その殺人は起こってしまった。その犯行を避けようと、当の犯人たちが散々に努力したにもかかわらず、あまりにも多くの偶然、ためらい、怠慢、不信が、サンティアゴ・ナサールを無残な死へと導いた。

登場人物が多すぎて、途中で誰が誰だかわからなくなりながらも大変興味深く読んだ。
意外にも一番印象に残ったのは、サンティアゴ・ナサールに死をもたらす原因となったアンヘラ・ビカリオが、後に、壊れた婚姻の相手のバヤルド・サン・ロマンに突然恋をして、17年間にも渡って手紙を書き続けたこと。そしてそれらの手紙を持って、バヤルド・サン・ロマンが彼女の元へとやってきたことだった。
彼らはその後どうなったのか、作品中では語られていないが気にかかる。
このエピソードは、「コレラの時代の愛」なる短篇へとつながるモチーフであるらしいので、そちらをぜひ読んでみたいところ。

構成の妙について解説で散々語られている本書だが、あらゆる人とのかかわりの中から語られつづけてきたサンティアゴ・ナサールの死、その詳細な描写が最後になって圧倒的な迫力で胸を打つ。無残な死に様であり、その後の無様な周囲の対応はすでに明らかにされており、陰惨なばかりの印象であったその最期を、作者はそこで鮮やかに反転させてみせる。
不思議に笑顔のイメージが残る物語である。
こんな物語であるのに読後感が奇妙に明るいのは、作中に含まれたユーモアのためばかりでなく、ラストシーンに用意されたサンティアゴ・ナサールの描写が大きくものをいっているのだと思う。

追記
「コレラの時代の愛」って翻訳されてないじゃん! ダメじゃん! どうすりゃいいのよ!
原題は「L'Amour au temps du cholera」というらしい。今からわたしにスペイン語を勉強しろというのか、そうか。
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by agco | 2005-08-04 21:08 | その他創作

「停電の夜に」 ジュンパ・ラヒリ

デビュー後まもなくO. ヘンリー賞、ヘミングウェイ賞、ピュリツァー賞などを総なめにした、インド系の新人作家の短編集。
ピュリツァー賞の位置づけがわたしにはよくわからないのですが、O. ヘンリー賞の方はものすごく納得のいく感じがします。こまごまとした普通の人々の日常の中から、さりげないと見えて実は意味深いできごとを切り出して来るその手法。そっと人の心理に寄り添い、小さな爪で、かすかな傷をつけていく。流血するほどではないが、薄赤く残り、いつまでもひりひりと痛む。

表題作「停電の夜に」は、最初の子供を死産でなくした若い夫婦の話です。
その出来事があってから、互いの歯車がうまく合わなくなっていたふたりは、停電の夜が何日かつづいたのをきっかけに、暗闇の中で蝋燭をともし、電灯の下では言えなかった小さな秘密を互いに打ちあけ合うようになります。
暗い中でのそうしたふれあいは、彼らにつかのまの親しい空気を呼び戻すようにも思えますが、彼らがその内部に隠し持っていた一番の秘密はもっと重いものであり、もはや修復のできないものでした。

もっとも痛いばかりではなく、じわりと染み入るやさしい話もあるんですよ。
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by agco | 2005-07-25 23:54 | その他創作

「エレンディラ」 G.ガルシア=マルケス

本当は次には「族長の秋」を読みたかったのだが、なんと絶版していて(?)新刊書としては手に入らない。があん。
そういうわけで、手に入れやすかった「エレンディラ」です。薄い本で、短編集で、読みやすいといえば読みやすい。「百年の孤独」の中にも出てきたエピソードと軽くかぶっている部分があるのは、もはやそれらは作者にとって、物語ることの根底にある発想の基盤なのだろう。
ふしぎな出来事がふしぎでなく起こり、決して人々の生々しい現実から離れてはいないのにどこか神話的な物語の数々がそこにある。
南米という土地柄なのか、人々の血は熱い。憎むのも愛するのも激しく強い。
それぞれに小粒ながらも、ギラギラと荒々しく、また洗練された輝きをもつ、色とりどりの美しい宝石のような物語集でした。
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by agco | 2005-07-19 00:24 | その他創作

「透明な旅路と」 あさのあつこ

妻と離婚し、上司の横領のとばっちりをうけて失職し、ほとんど理由もなくラブホテルで街娼を絞め殺してしまった男、吉行。
車に乗って逃亡し、何のあてもなく実家のある山中へと分け入った彼は、行き止まりの旧道で不思議なふたりの子供と出会う。白兎(ハクト)と名乗る少年と、和子という名の幼女の二人連れは、夜の山道に突然立っているのはあまりに不自然な組み合わせだ。しかも吉行は白兎の顔にどことなく見覚えがあり、また和子の名前におぼろげな記憶がうずいた。しかし彼はその正体を思い出せずに、とりあえずふたりを車に拾うことになる。

この話、白兎が名乗ったあたりのシーンで、すでにかなり先の予想がつくというか、からくりがうっすら見えちゃうので、それをどういう風にまとめるかに真価が問われるタイプの物語です。
ええと、それで、わたしの個人的な評価は申し訳ないけどそう高くはない。普通くらい。大きく外してはいないけど、感動するほどではない。
普段は児童文学の書き手である作者は、本作を大人向けに書こうとして、いらないところに力が入ってしまったのではないかという気もする。
やたらと下半身の描写だの殺人の描写だのが多いのは、露悪的にすることが大人の証明だとでも思っているのだろうか? だとしたらそれは少々勘違いだ。別にそんな描写はなくても大人にむけた物語は作れる。
そのあたり、熟考し、次の物語に挑んでいただきたい。
というか、普段子供むけに書いているものの方が、よほど大人むけの内容であるような気がするのだが。
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by agco | 2005-07-16 23:52 | その他創作

「夜のピクニック」 恩田陸

昨年の本屋大賞受賞作。
恩田陸は若人を書かせると上手いなあ。今風すぎもせず、かといって古臭くもなく、普通に地方の高校生はこんな風じゃないのかなというくらいの、リアリティのある若者ぶりです。

24時間、夜を通して歩き続けるという学校行事「夜間歩行」の間には、実に様々なドラマがある。恋あり、出生の秘密あり、出会いや別れがある。登場する高校生たちはみんな個性があって、地に足をつけて生きている。未熟ではあっても、未来にむけてきっちり顔を上げている。
ちょっと性善説に偏りすぎている気もするが、爽やかで読後感のいい物語である。

わたしももう一度高校生くらいに戻りたいなあー。
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by agco | 2005-06-23 00:15 | その他創作

「鍵のかかった部屋」 ポール・オースター

5日違いで隣家に生まれ、「僕」とファンショーは親密に育った。ファンショーは「僕」の神様みたいなものだった。彼は特別な人間で、年よりもはるかに大人び、独自の価値観を持ち、才能にあふれていた。
大人になってそれぞれに生活が分かれて以来、「僕」はファンショーと会っていなかった。それがある日突然ファンショーの妻と名乗る女性から手紙を受け取る。そこにはファンショーが失踪したことと、大切な用件があるので直接会って話がしたいことが書かれていた。とまどいながらもそれを受け入れた「僕」は、ソフィーの家へとおもむき、一目で彼女に惹かれる。ファンショーは彼女に言い残していた。もしも彼が帰ってこなかったときは、「僕」に連絡をとり、書き溜めた原稿を渡して欲しいと。
ファンショーは若い頃から文章を書いていた。「僕」と会わなかった長い年月のうちに、長編小説数編と戯曲と詩をたくさん完成させていた。「僕」はそれを出版社に持ち込み、出版にこぎつけた。ファンショーの小説は売れ、「僕」とソフィーは結婚し、「僕」はファンショーの伝記を書くことになる。しかしファンショーの軌跡をたどる旅は「僕」を追い詰め、次第に彼自身を狂わせていく。

追う者は追われる者と同化し、いつしか立場は逆転する。ニューヨーク三部作の三作目。とはいえ、前2つを読んでいなくても特に問題はありません。
これ、「リヴァイアサン」の習作みたいな話ですね。先にあちらを読んでしまったために、そう感じるのかもしれないけど、書かれた時代はこちらの方がずっと以前になります。
本作ではファンショーが失踪した理由というのはほとんど書かれておりませんが、問題はそんなところにはなくて、ファンショーを追う過程で「僕」の心理がいかなる変遷を遂げていくかが見所です。興味深い。
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by agco | 2005-03-20 22:52 | その他創作



あまりに自分の忘却力がすごすぎるので、面白かったものも面白くなかったものも、とりあえず読んだ本の感想を全部記録してみることにしました。コメントなどありましたらご自由にどうぞ。
by agco
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