カテゴリ:その他創作( 49 )

「イッツ・オンリー・トーク」 絲山秋子

絲山秋子のデビュー作「イッツ・オンリー・トーク」と、ほか1編。
普通に生きるということが難しいと感じる人は、この本を読めばいいと思う。
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by agco | 2007-05-15 19:59 | その他創作

「ティンブクトゥ」 ポール・オースター

本書の主人公は犬である。おいぼれで、決して美しくもないが、知恵がまわり、主人に忠実な犬である。名前はミスター・ボーンズだ。
彼の主人ウィリーは相当にだめな男で、ほとんど浮浪者のようなありさまで死んだ。その死の直前、男はミスター・ボーンズに新たな主人のもとへ行けと(その時点では、男の高校時代の恩師が最有力候補だった)遺言するが、ミスター・ボーンズは結局その人物に会うことはできず、様々な人の世話になりながら、町をさすらうことになる。
最終的に落ち着いたとある家庭で、ミスター・ボーンズはそこそこに安定した生活を得るが、しかし完全には満たされていない。

本書を非常に印象的なものにしているのはミスター・ボーンズの見る夢である。それはときに現実をふしぎな形で垣間見せ、示唆を与え、ミスター・ボーンズを導く。ときにはウィリーが出てきて、ひどいことを言ったりもする。
しかしミスター・ボーンズは、多分、ウィリーのことが本当に大好きで、ほかの誰かに飼われることなど望んでいなかったのだ。生きるためには様々な苦悩を耐えねばならない。しかしそれよりは、できることならば、死してウィリーのもとへ、つまりはティンブクトゥへ行きたかったのだ。
といってもミスター・ボーンズは決して死を望んでいるのではない。彼の最後の跳躍は、彼がよりよく生きるためのものだった。
とわたしは思いますよ。
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by agco | 2007-05-03 19:21 | その他創作

「シティ・オブ・グラス」 ポール・オースター

ニューヨーク三部作のその1。
結局わたしはこの三部作を、2→3→1という妙な順序で読んでしまったことになる。内容的には、そんなにはっきりとつながっているわけではないのだが、しかし、作者の事件というものの扱い方というか文章の書き方には、かなり明確な変化が見受けられるように思える。
だからこれは本当は1から順に読んだほうがよかったんじゃないかな。
でもまあ細かいことを気にしちゃいけない。これはこれでとても面白い読書体験だった。

とあるミステリ作家のもとへ、あるとき見知らぬ女からの電話があり、「探偵のポール・オースターさんに依頼したい件がある」と言われるが、作家はそんな名前ではなく、間違い電話だといくら言っても相手は納得しない。
気になって、結局ポール・オースターの名を騙り、電話の女のところへ行くと、奇妙な話を聞かされる。女の夫(まだ若い男)は幼い頃に父に殺されかけたことがあり、精神を病んでしばらく入院していたが、退院した今、刑務所に入っていた父が再びやってきて、彼を殺そうとするに違いないのだと言う。
作家は、その父親の若かりし頃の写真を一枚渡され、駅で張り込みをすることになる。そしてある日ついにそれらしい人物を見つけ、ホテルまで尾行をするが、この老人がそれ以降にとった行動はひどく不審なものだった。目的もなく町中をさまよい歩き、作家の目にはゴミとしか見えない様々なものを拾い、持ち帰る。それ以外は食事のためにカフェに寄ることしかしない。
ところがこの老人の歩く経路を地図上に描き出してみると、そこにはアルファベットが浮かび上がり、日々のそれらをつなげると、ある重要な意味を持つ単語、文章が綴られようとしていることがわかる。

このあたりまでの展開は、ミステリと読んでもさほどおかしくはない。おかしくはないが、やはりおかしい。この後の展開はさらにミステリの範疇をはみ出し、荒々しくも研ぎ澄まされた「文学」の領域へとなだれ込んでいく。
その後のオースターの小説をいろいろ読んでいる目から見ると、初期の頃のこの作品には荒削りな部分が目立つが、しかし荒い分パワフルで率直な、興味深い一冊である。
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by agco | 2007-05-02 19:03 | その他創作

「アフターダーク」 村上春樹

村上春樹を再評価してみよう(勝手に個人的に)企画として読んでみた一冊。
うーん……。悪いとは言わないけど、わたしは「海辺のカフカ」のほうが好き。
確か「海辺のカフカ」の解説に、「海辺のカフカ」は失敗作だが「アフターダーク」は人を救うということに成功しているというようなことが書いてあったのだが、うーん、そうかな。あまり賛同できないかな。
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by agco | 2007-04-01 23:30 | その他創作

「セント・メリーのリボン」 稲見一良

5本のお話の入った短編集であるが、ひとつひとつがきりっとしていて、さりげなく心地よい。
この作者の描く男性は、きっと同じ男性の目から見て理想的に格好良いのではないかと思うが、どうなのだろう。もちろん女性の目から見てもステキです。高潔であり、無欲であり、己を律する強さを持ち、ちゃんと他人に愛情を向けられる正しい大人です。
そして鳥を中心とする自然の描写がまた卓越しているのですが、その自然のなかで食べるものというのがすごく美味しそうで羨ましくなります。
特に「焚火」に出てくる料理。
主人公の男がやくざに追われ逃げ込んだ林の向こうの平地で、偶然出会った奇妙な老人がその場で作って出してくれた料理はこれ。焚火で焼いたジャガイモと、冷たい井戸水で割った梅酒と、厚切りのハムと茸を焼いたもの。

薯(いも)は熱く重く、粗塩をつけた皮がパリッと焼け、むっちり肥った肉を包みきれずに今にもはち切れそうに見えた。

爽やかな香りと甘さが火照った口中を満たし、荒れた喉を滑り落ちて行った。腹の中にポッと火がついた。

老人は鍋を揺すって、熱い脂を万遍なくハムに滲ませた。ハムは脂の中で反り返った。老人は二股の木の枝をフォークのように使い、ハムを裏返した。忘れるところじゃった、とつぶやいて、懐から小さな紙包みを出し、中のものを鍋にぶちあけた。つやつやした小指ほどの茸だった。鍋の縁で舌舐めずりしていた焔が肉に飛び、フランディを投げ入れたように一瞬火がついた。

……美味そうだ……。ちゃんと自分の体験を生かして書かれている地に足のついた描写だと思います。
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by agco | 2007-01-23 21:15 | その他創作

「わたしを離さないで」 カズオ・イシグロ

これは悲しいお話です。
介護人である主人公が、その現在や過去を語るという形式で本書は書かれており、最初は謎に満ちていた用語や環境、主人公の現在の立場などが、読み進むにつれ次第に明かされていきます。
はっきり書いてしまえばそれはクローニングおよび臓器提供に関する問題なのですが、それは常に底辺に重く伏流しており、表立って語られるのは恋や将来についての不安や、人と人との細かな感情のぶつかりあいや愛情といった、とてもありふれた、人間的なできごとです。
そんなふうに淡々と、しかしながら繊細に主人公たちの感情の動きを描き出して見せることで、著者はもしかしたらただ、彼らもまた普通の人間であるのだということを言いたかったのかもしれません。
ここまで切々と語らなければ、きっとそれがわからない人も世の中にはいるのだと、もしかしたらここまで語られてすらまだわからない人がいるのだと思うと、少し背筋がぞっとします。
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by agco | 2007-01-18 23:26 | その他創作

「LOVE」 古川日出男

本書は作者の前作「ベルカ、吠えないのか?」に対する猫的アンサーであると作者紹介欄に書かれているが、それで内容を予想しながら読むと大いに外す。
その外すところがむしろ古川日出男的にはしてやったりなのかもしれない。

猫と猫をカウントする少年老女青年中年女等々の人々(いわゆるキャッターズ)を軸に物語は進んでいるようないないような、とにかく群像劇であり、どこに視点の中心を持ってくるかは読み手の自由である気もする。
淡々と語られていく荒唐無稽な物語の断片・断片をつぎあわせて、どういうストーリーをそこに見るのかも、ある程度は読者の自由である気がする。
暴力や死や贖罪もそこには書かれているが、おそらくは本書のテーマはタイトル通り「LOVE」なのだろう。LOVEというのは広い意味を持つ言葉である。そこもまたどう受け止めるかは読者次第なのかもしれない。
そんな自由度の高い本書であるが、私的におおと思ったのは二本のギターを持つミュージシャン(のたまご)の彼である。最初の物語と最後の物語に登場する彼のラストシーンがとても鮮やか。
工事の音にまぎれていても、彼の演奏はきっちり空まで届いただろう。
本書の読了後に爽やかな余韻が残るのは、彼のおかげである部分が大きい。
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by agco | 2006-11-28 22:52 | その他創作

「コレラの時代の愛」 G・ガルシア=マルケス著 木村榮一訳

超お久しぶりです。生きています。
これだけ間があくと戻ってくるのもためらわれる感じなのですが、長らく待っていたこの本が出たので、やはり一言書いておこうかと。

「予告された殺人の記録」のとあるシーンと関わりがあると聞いていた本書ですが、微妙に近しいシーンはあるものの、その意味はかなり違っていたような気がします。
しかし膨大な量の手紙を通して一組の男女の間に培われていく感情の変遷を扱っている点では、似ているといえば似ているのかも。
手紙はこれまでガルシア=マルケスの作品の中で、たとえば「愛その他の悪霊について」においても非常に重要かつ効果的なアイテムとして用いられてきました。それは作中で扱われている時代の要請でもあるのでしょうが、現代のようにメールが普及している環境下では決して生じ得ない、隠微で重篤な関係を育むものであるように思えます。
手紙は返事が返ってくるものもあれば、返ってこないものもあり、後者の場合はそもそもその手紙が開封されたかどうかすら差出人にはわかりません。
それでもなお手紙を出し続けるということ、その行為自体が示す感情の重みは、相手を変質させずにはいられません。

「コレラの時代の愛」は、非常に長い時間を隔ててついに愛を成就させた一組の男女のお話ですが、当のふたりばかりではなく、彼らの人生に関わった人物たちはそれぞれに深い厚みを持ち、胸に残ります。
たとえば「百年の孤独」に見られるような幻想性は本書にはありませんが、そうしたものを排し去ってすら、ガルシア=マルケスの描く物語はほとんど幻想的と言っていいほどに浮世離れしています。「本当らしさの限界」を追求するために本書を書いたというのもむべなるかな。
待っていてよかったと思える本でした。
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by agco | 2006-10-31 23:16 | その他創作

「彼方なる歌に耳を澄ませよ」 アリステア・マクラウド

カナダ東端の島に渡ったスコットランド移民の子孫アレグザンダーは、幼い頃に両親と兄をひとり亡くし、その関係で双子の妹とともに祖父母の家で育てられた。その当時すでに10代半ばになっていた三人の兄たちは、それとは別に彼らだけの生活をはじめた。
かくして兄弟たちの生活環境は大きく隔てられることとなった。幼い双子たちは町中で高い教育を受け、上流社会の仲間入りを果たし、兄たちは野生にほどちかい労働者階級として生きた。
それでも彼ら兄弟たちの間には確かに通じ合うものがあった。
長じて歯科医となり、自らの家庭を持つようになったアレグザンダーは、社会の最下層に近いところで酒びたりの生活を送っている最年長の兄のもとを、週末ごとに訪れるようになる。そこには愛情と、暗黙のうちに通じ合う、互いの人生への了解がある。
移民としての生き方、抱え込んだ伝承の数々、階級間の距離、遠くにありながら近い関係を、時間を前後に行き来させながら淡々とできごとを積み重ねながら描き出す。

ラストがじんわりと胸にしみる物語でありました。
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by agco | 2006-04-21 23:45 | その他創作

「未亡人の一年」 ジョン・アーヴィング

4歳のルースは、母マリアンと、アルバイトの少年エディの情事を目撃する。それからしばらくして母は、死んだ二人の息子の写真を持って一方的に家を出た。
女ぐせの悪い童話作家の父に育てられたルースは長じて小説家になる。
マリアンを忘れられなかったエディもまた、年上の女性との恋愛をテーマにした小説ばかりを書く作家となっており、そしてまた37年にも渡って行方不明だったマリアンもまた、ひそかに作家になっていた。

あらすじから想像されるよりもはるかに圧倒的に面白い本。
循環、あるいは長い年月を隔てて物事が繰り返されること。それが強く印象に残ります。
特にラストシーン。まさかあそこにつながるとは、やられたって感じです。
このすごさは読まねばわかるまい。
とりあえず、マリアンが超格好いい女でした。ある意味エディもすごいが…。
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by agco | 2006-02-14 01:51 | その他創作



あまりに自分の忘却力がすごすぎるので、面白かったものも面白くなかったものも、とりあえず読んだ本の感想を全部記録してみることにしました。コメントなどありましたらご自由にどうぞ。
by agco
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