「ある遭難者の物語」 G. ガルシア=マルケス

コロンビア海軍の駆逐艦から海中に落ち、たったひとり筏の上で11日間に渡って海を漂い、ほとんど飲まず食わずのまま奇跡的に生還した男の物語。
新聞記者時代のガルシア=マルケスが、当人から話を聞いてまとめた実話。

物語は最初から不吉な陰を帯びている。ごく初期のうちに主人公が遭難することは明示されており、出てくる登場人物ごとに、その末路が予言のように語られる。
いついかなる経緯の果てに、彼らの上に死が訪れるのか、読者は否応もなくひきつけられる。

思えばこの手法はガルシア=マルケスお得意のものだ。「百年の孤独」においても、冒頭のシーンからすでにブエンディア大佐が銃殺刑に処せられることが示されているが、実際に物語がその場面に到達するのはかなり先のことである。
「予告された殺人の記録」だってそうだ。サンティアゴ・ナサールが死ぬことは、すでに避け得ない出来事として、物語の冒頭のうちに語られる。その明らかにされた未来へむかって、どうすることもできない求心力で物語り引き寄せられていく。
結末がわかりきっていても、そこへ至る過程はまるで色あせないし、実際に描き出されたその未来というものは、読者の想像を必ず裏切る。

本書はノンフィクションだというが、11日間も人間はあんな風に生き延びられるものなのだろうか。それは本当に奇跡的だし、それだからこそ新聞種にもなり、こうして物語として残ることになったのだといえよう。
短く、淡々としているとも思える記録だが、これはこれで奥深い。
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by agco | 2005-09-09 00:53 | その他創作
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あまりに自分の忘却力がすごすぎるので、面白かったものも面白くなかったものも、とりあえず読んだ本の感想を全部記録してみることにしました。コメントなどありましたらご自由にどうぞ。
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