「偶然の音楽」 ポール・オースター

離婚をし、一人娘を姉にあずけて身軽になった消防士のナッシュのもとに、突如父親の遺産が転がり込んでくる。もう長い間会った事もなかった父からの大金はナッシュをとまどわせる。彼は仕事を辞め、赤いサーブを買って、一年ものあいだ無目的にアメリカ大陸を走り回る。
遺産も残り少なくなってきた頃に、ナッシュは田舎道でポッツィという名の若者を拾った。ポーカーの天才を自称する彼は、ゲームの最中を強盗に襲われ、有り金を巻き上げられたばかりか、ポーカー仲間に強盗の一味と疑われて殴られたのだ。
無一文でくたびれ果てたポッツィを、ナッシュは立派なホテルに連れて行き、服や身の回りのものを買い与える。それは慈善事業ではなく、遺産の残りの一万ドルを、ポッツィの腕に賭けてみようとナッシュが考えたからだった。
ポッツィは宝くじで大金持ちになった二人の男との勝負を目前に控えていた。金持ちたちの館へとナッシュとポッツィはサーブで乗り込み、そこで大きな賭けに出たが、結果は裏目裏目へと進み、ついにはナッシュは全財産とともに愛車までもを巻き上げられてしまう。
町へ戻るタクシー代さえ持ち合わせないふたりに、金持ちふたりは酔狂な提案をした。ヨーロッパから買い上げて運んできた古城の石を組み直し、空き地に長大な壁を作る作業をする人夫として彼らを雇おうというのだ。賃金は一時間ひとり10ドル。借金は1万ドル。ふたりがかりで50日間、10月中旬までかかる肉体労働の日々がはじまった。

ポール・オースターの不思議なところは、特に幻想的といえるような記述をしなくても、淡々と現実を物語るだけで、一風奇妙な世界へ読者をスライドさせてしまうところだ。
本書のナッシュやポッツィも、特別異様なことはしていない。延々と彼らは石を積む。体を動かして働く。しかし彼らの置かれている状況そのものは奇妙であるし、理不尽であり、よそから切り離されている。
ラストは衝撃的だが、あれはナッシュの意図したことではなかったという気がする。偶発的な出来事だったからこそ理不尽なのであり、ナッシュに同情もできるのだ。(人生てのはそんなものさ、とか、思った通りにはいかないものさ、とか)
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by agco | 2005-08-30 23:56 | その他創作
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あまりに自分の忘却力がすごすぎるので、面白かったものも面白くなかったものも、とりあえず読んだ本の感想を全部記録してみることにしました。コメントなどありましたらご自由にどうぞ。
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