「風転」 花村萬月

花村萬月が書くのは常に何かを激しく命がけで希求する物語であることだなあと思う。
それが人を殴ったり殺したりすることであれ、セックスであれ、花村萬月の書く物語の登場人物たちはそれを恐ろしいほど真摯に実行する。なので暴力はただの暴力ではなくなってしまい、セックスもただのセックスではなくなってしまう。
それではそこには代わりに何があるのかといえば、それは命がけで何かを得ようとする試みのように見える。何かというのは人それぞれに違うんだけど。
彼ら、あるいは彼女らは、非常に厳しく各人の倫理あるいは良心に戒められているため、はたからはどう見えようと、彼ら個人の認識の中においては大変に道徳的である。人殺しも性遍歴も、すべてが独自のモラルに律されている。

さて、この長い物語(ハードカバーでは一冊だけど、文庫版だと全3冊)における主人公は18歳の浪人生ヒカルと、やくざにもなりきれなかったインテリやくざ鉄雄の二人なのだが、父殺しという重い罪を背負ったヒカルと、これまたやくざ世界においては父殺し、兄弟殺しに相当する、組長および組員その他を大量に殺して追われている鉄雄とは、なぜか非常に相性がよく、ともにバイクで旅立つことになる。
このふたりは3,4ヶ月にも及ぶ長い旅の中で成長し、わかりあい、ほんのつかの間のものではあっても、とても幸福な関係を築く。それが、ちょっと切ないのだよね。
彼らの関係はプラトニックなほもだと言っていい。別にいつ犯っちゃってもおかしくはない状況だったのだが、あえてそれをしなかったことで多分互いに互いがより特別なものになっただろう。あれはそういう関係である。
花村萬月の話には結構頻繁にほもが出てくると思うのだが、今回のこれはかなり純粋なピュアラブだった。女もいっぱい出てくるというのに、それを全部差し置いて男同士でピュアラブ。この際萌子はどうでもいい。あの子はあの子でやりたい通りに生きたからね。
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by agco | 2004-08-23 21:55 | その他創作
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あまりに自分の忘却力がすごすぎるので、面白かったものも面白くなかったものも、とりあえず読んだ本の感想を全部記録してみることにしました。コメントなどありましたらご自由にどうぞ。
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